「……なんだ、コレは」
そう言うルルーシュ────この黒の騎士団の中では仮面を被り、ゼロとして正体を隠しているが、此処はゼロの私室であり、カレンと二人きりのため今は仮面を外している───の手にぽん、と置かれたそれは、淡いラベンダー色の包装紙に深紅のリボンで綺麗にラッピングされた小さな箱だった。
「何って……バ…バレンタインのチョコレートよ…」
ルルーシュの問いに、少し恥ずかしそうに俯きながら答えるカレンの頬は、僅かに赤く染まっている。
ルルーシュにはわざわざそんな事を訊かなくても今日が何の日で、カレンに渡された物が何なのかなど本当は解っていたのだが、カレンのこの可愛らしい反応見たさにわざわざ素知らぬフリをして訊いたのである。
そんなルルーシュの心境は僅かに上げられた口角から、カレンにも感知される。
「─────ッ!!!?ちょ…っルルーシュ!!!あなた実は解ってる癖にわざと訊いたわね!?」
「フッ。まさか。俺がそんな底意地の悪い男に見え」
「見えるわ」
ルルーシュの言葉が言い終わらないうちに、カレンはピシャリと言い放つ。
学園ではやれ紳士的だとか優しいだとか真面目だとか寡黙な美少年だとか女子生徒の間でじわじわと生まれ、いつの間にやら固定された様々なルルーシュ像。
しかし誰がどう勘違いをしてルルーシュという人間を誤って解釈しようとも、カレンにはルルーシュがどんな人間かなど今更説明の必要など無いくらいよく解っている。
……学園で、ルルーシュに憧れを抱いていた女子生徒は数知れない。
けれどみんなルルーシュの本質など知らない。
知るわけがない。
"つまりは、本当のルルーシュを知っているのは自分だけ………"
(────ってなに考えてんのよ私はッ!!)
無意識におかしな考えが事が頭をよぎった瞬間、カレンはハッと我に帰り、雑念を振り払おうとブンブンと頭を左右に振った。
「───ん。なかなかうまいな」
「……へ?」
突然のルルーシュの声に顔を上げると、いつの間にか包装を解き、自分がプレゼントしたチョコレートをルルーシュが頬ばっている。
「……これは…カレンが?」
「え……えぇ…まぁ…一応…頑張りました……」
もともと大雑把な性格なカレンは、お菓子作りなんてそんな細かい作業などはっきり言って苦手だった。
けれど一人悶々とルルーシュへのチョコレートをどうしようかと悩んでいたカレンに、別に訊いてもいないのにたまたま通りすがったC.C.がぼそり、と言ったのである。
「男は手作りというものに弱い生き物だぞ」
────と。
カレンが悩んでいたのは手作りかそうでないか以前に渡すか渡さないかについてだったのだが、不敵に笑いながらそう言ったC.C.の目が
『どうせお前のようなガサツな女にはそんな手の込んだ作業など無理だろうがな』
と言っているように見えて、よくわからない負けず嫌い精神に火がつき、今にいたるのだった……
「か…勘違いしないでよねっ!騎士団のみんなにあげるついでにあなたにも渡すだけなんだからっ!!!」
言いながら益々カレンの顔は赤くなっていく。
嘘の付けないカレンのこの反応に、カレンの言っている事が嘘だと言うのは誰の目にも明らかなのだが、そうと解っていながらも問いたださずにいられない男が目の前に居る。
ルルーシュである。
「ほぅ……先程皆に配っていたチョコレート…アッシュフォード学園より徒歩10分のデパートでバレンタイン当日セール50%オフで売られていたチョコレートに包装紙も箱の大きさも中身のチョコレート自体もそっくりなように見えたのは俺の気のせいか?」
「う……ッ」
むしろどうしてそんな細かい事まで知っているのかと訊きたいぐらいだったが、今のカレンにとっての問題ではそんなところではなく、自分が渡したチョコレートが紛れもなくルルーシュの為だけの手作りだとバレてしまった事。
今更ルルーシュにあげたものも買ったものだなんて言えるはずもない。
なぜならさっき自らの口で『頑張りました』などと認めてしまったのだから……。
もはや何も反論する事は出来ず、ただ俯きながら顔の赤さを増し続けるカレンを、ルルーシュは薄く笑みを浮かべたまま黙って見つめている。
それに耐えきれなくなったカレンはくるりと後ろを向いた。
「と...とにかくっ!!用事は済んだから私はみんなの所に帰るから!!」
「……待て。」
出口に向かってそそくさと歩き出そうとするカレンの手を、素早くルルーシュは捕まえ、そしてやや強引に自分の方へと引き寄せる。
「な…なによ……?」
「せっかく俺の為に用意してくれたチョコレートのお礼をしないといけないだろう?」
「い…いらないわよそんなの!!!」
お礼、と言いつつ瞳の奥に黒い笑みを浮かべるルルーシュに気付いてしまったカレンは、もちろん全力で拒否してみるが、そんなささやかな抵抗でルルーシュがそれをやめるはずもなく、むしろ逆に加虐心を煽ってしまった結果となった。
左手はカレンの左手を掴んだまま、くるりとダンスでも踊らせるかのように自分の側へとカレンの体を抱き寄せるルルーシュ。
軽やかに、そして素早いルルーシュの動きはカレンに抵抗の暇を与えず、驚いたような表情を浮かべたままのカレンの薄紅の唇にキスを落とした。
「────────んな……っ!!?」
「……ごちそうさま。」
「ご…ごちそうさまって…………ッ!!!」
フフンと、いつにも増して黒い笑みを浮かべそう言うルルーシュの姿に、カレンは真っ赤に蒸気した顔で食ってかかる、が。
「チョコレートが旨かったから素直にごちそうさま、と言っただけだが…何か?」
「ちょ…チョコレート……?」
「なんだ。そんなに顔を赤くして……何か違う想像でもしたのかカレン?」
「うぅ………ッ!!!」
明らかにカレンが『ごちそうさま』の意味合いをチョコレートとは違う方に解釈した事に気付いているくせに、ニヤニヤとした薄笑いで問いかけるルルーシュ。
その姿はもはや学園内で人気の『ルルーシュくん』とは明らかにかけ離れた姿だ。
「も……もうこれ以上付き合ってられないわ!!今度こそ私は戻るからッ!!」
ルルーシュの言葉に、恥ずかしさと怒りでうっすら涙まで浮かべ、ますます顔を真っ赤にしながら、カレンは力いっぱいルルーシュの手を振り解くと出口へと駆け出して行ってしまった。
「フ……今日は少し苛めすぎたな……」
カレンが去ったドアを見つめながら、ルルーシュはクックと喉の奥で小さく笑うと、そばにある包みの中からもう一つ、チョコレートを取り出し口に運んだ。
「────もぅっ!チョコレートなんかあげるんじゃなかった!!!」
ズンズンと豪快な足音を立てて通路を歩くカレン。
このほとばしる怒りのオーラを感じたなら、きっと山で遭遇しかけたクマであっても一目散に逃げ出すであろう。
それは騎士団の仲間たちも同様で、誰一人凄まじい形相のカレンに、何があったのかと尋ねたいがそれは命に関わるタブーのような気がして、そそくさとカレンから離れていく。
しかしカレンの顔が赤いのはもちろん怒りだけであるはずもなく、ふと思い出して指先でルルーシュが触れた唇にそっと触れてみる。
もうルルーシュから離れてだいぶ時間が経つ気がするのに、唇だけがまだほんのりと、熱と甘さを残しているような気がして、カレンは複雑な表情を浮かべたが、「……ルルーシュのやつ……」と、ぽつりと呟くと一瞬、幸せそうな笑顔を浮かべて再び歩き出した。
それは素直になれない二人の……甘い、甘いバレンタインの小さなエピソード────………
End

~あとがき~
拙い文章ですが、最後までお読み下さいましてありがとうございますっ!そしてお疲れ様でした(*≧艸≦)vV
ルルカレバレンタインin騎士団本部(^ω^;)
チョコレートのお返しはチョコレート味な甘いチューでした(笑)
きっとホワイトデーには更に凄いお返しが来るに違いないです(ぇ)
ルルカレはルルがカレン可愛さに苛めて楽しむSっぷりと、ルルに遊ばれてあわあわしているカレンを書くのが本当に楽しいです(*´∀`)vV
怒りながらもルルに遊ばれるのはきっと心の底では幸せだとカレンは思っていると紫音は勝手に妄想しております(笑)
最後の『ルルーシュのやつ……』は、ご存知カレンがブリタニアに捕虜として捕まった直後、『必ず助けるから待っていろ!』というルルの言葉に、思わず嬉しくなっちゃったカレンのセリフをそのまま頂きました(*T艸T)vV
カレンのルルへの愛がひしひしと伝わる素晴らしいセリフです++
何か色々やらかしちゃうルルに対して『仕方ないなぁ』と、なんとなく許してしまう。
これぞルルカレ++(どんな方程式だ)
ルルもまさかカレンが自分にだけ手作りチョコをくれるとは思っていなかったので実は嬉しかったりしているのですが、素直にありがとうが言えなくて照れ隠しにカレンをからかってます。
どこの小学生なのか(笑)
でもそんな二人だから愛しいのです(*´∀`)vV
とにかく読んで頂きましてありがとうございますっ!!!ヽ(≧▽≦)/++
2009.02.15.
風月夜/紫音