君ヲ想ウ

 

 

 

 

 

 「──麻理子、入りますよ?」

沈みかけた太陽に染め上げられ、空が鮮やかな朱色に変わる頃。

僕は一人で麻理子の天幕を訪ねていた。



すー…
すー…



天幕の中に足を踏み入れると、気持ち良さそうな寝息をたてて麻理子が眠っていた。

「──こんなところで……
風邪をひいてしまいますよ?」

どうやら縫い物の途中で眠ってしまったらしい彼女は、腕に僕の服を抱いたままで天幕にもたれかかるようにして座っていた。


「……麻理子…?」

『…ん……』

小さく名前を呼んでみたが、麻理子は余程深い眠りについているようで、全く目を覚ます気配は無かった。

「……疲れていたんですね……」



麻理子がこの世界にやって来て、幾日が過ぎただろうか。

突然見知らぬ世界に放り込まれて、何も解らない世界でたった一人で今日まで──…


けれど彼女は、決して辛いなどとは言わない。

この細い体で、どれだけのものを抱えながら必死に立っているのだろう……



そんな事を思いながら、麻理子の頬へと手を伸ばすと、触れた指先からはやわらかな温もりを感じる事が出来た。

 

その温かさに吸い寄せられるように、
麻理子をそっと腕の中に閉じ込める。





『し……ぎ……』





眠りの淵で僕の名を呼ぶ貴女の声。



そんな甘い声で名前を呼ぶから



熱を帯びた胸が苦しくて、僕は貴女を放せなくなる





「麻理子……」





名前を呼ぶ程に募り、零れ落ちそうになる想い。

この胸に燈る想いは、一体何処からやって来るのだろう……





太陽は既に地平線の彼方に身を隠し、天幕の中はほの暗い闇に包まれている。


そんな闇に紛れて
僕は麻理子の細い首に口付けを落とした。








もしも───










もしもこのまま永遠に










貴女を僕のもとに繋ぎ留めておく事が出来るのなら───……

 

『──え……やだ…っ
誰…!?』


目を覚ました麻理子が、慌てふためきながら大きな声を出した。


「麻理子、僕ですよ」

『紫義…?』

寝起きの為か、少し掠れた声で麻理子は僕の名を呼んだ。


『なんだ…びっくりさせないでよ…』

「すみません…
驚かせるつもりは無かったのですが、麻理子の寝顔を見ていたらつい……」

『…つい…?』

「しるしを付けたくなりました」

『…は…?』


僕の言葉に、何の事だか解らないという様子で麻理子は首を傾げる。

そんな姿さえも愛おしくて堪らなかった。


「麻理子が僕の物だというしるしです。
ちゃんと付いていますよ?ココに」

そう言いながら、僕は先程自分が口付けた場所を軽く人差し指でつついてみる。

『…?
ココ…って───……ッ!!?』

ようやく理解した彼女は、首を押さえて声にならない悲鳴をあげた。

『───なっ!
何してるのよ紫義っ!!
こんなんじゃ恥ずかしくて皆の前に出れないじゃないっ!!』

暗くて良くは見えないが、間違いなく顔を真っ赤にさせながら叫ぶ麻理子を、僕は笑いながらもう一度抱きしめた。

 

「良いじゃないですか。
別に隠す必要なんてありませんよ」

『し…紫義が良くても私は良くないの!
それになんか変な誤解とかされそうだし───』



「…では、誤解の無いように"本当に"僕のものになってくれますか…?
麻理子……」



抱きしめた彼女の耳もとでそう囁いてみると、麻理子は僕の腕から逃れようと必死にもがき始めた。


「逃げなくても大丈夫ですよ。
今のは冗談ですから」

『もぉ……紫義のばかぁ……』


必死に笑いを堪えながら麻理子をなだめると、麻理子は抵抗するのをやめて大人しく腕の中に留まってくれた。










たとえ










いつかこの腕の中から貴女が飛び立つ日が来るのだとしても










たとえいつか










悠久の別れが二人の前に訪れるのだとしても










それでも───










「今だけは……

貴女は僕だけのものです……麻理子……」


END

 

 

 

 

 

~あとがき~

はい!ここまでご覧になって頂きましてありがとうございます!
そしてお疲れ様でした(*^_^*)

紫音には珍しく短篇です!
②度目の紫義サマ視点…
①度目は随分悩みましたが今回は一気に書けました。

本当は違う話を書いていたのですが突然この話が降りて来たので(笑)こっちを先に書いてしまいました(^-^;

ちなみに今回は大好きなポルノグラフィティの『ヴィンテージ』とゆう曲を聴きながら作りました♪
別に曲の内容とはかぶらないんですが、なんとなく…(^-^;

今回、紫義サマをちょっと行動的にしてみたくて書いてみたのは良いんですがなんとなく紫義サマのキャラクターが違う気がして仕方ないです…
いかがなもんでしょうか…?('-';)

もし良かったら感想とかBBSに書いて下さるとすごく嬉しいです(≧ω≦)vV