夢のあとに

 

 

 



──そこに広がるのは



どこまでも続く
白い白い闇



遠くに懐かしい人々の姿が見えたような気がして



息が切れる程走ってみたけれど



どれだけ走っても
何処へも辿り着けない



どれだけ叫んでも
誰にも届かない



此処には



何も在りはしない…









ねぇ










消えてしまったのは、世界……?










それとも───…










 

 

 

 

 

 

 





「──麻理子!!」

唐突に名前を呼ばれ、現実の世界へと引き戻される。

開いた瞳に映るのはいつもと変わらない、見慣れた天幕の中の景色。

「大丈夫ですか?
酷くうなされていたようですが…」

視線を移すと、紫義が寝台の横に佇んでいた。

『うん…平気…』

そう答え、ゆっくりと体を起こしながら少し乱れた呼吸を整えるために深く息を吐くと、ひんやりとした汗が頬を伝って行くのが解った。

「…何か、嫌な夢でも見たのですか…?」

『………世界が…』

「……世界…?」

『世界が…全部真っ白だったの…』

紫義の穏やかな問い掛けに、私は戸惑いながらも自分が今見た光景を思い浮かべ、淡々と答える。

『何処まで行っても、どんなに叫んでも誰も居なくて…
広い世界にたった独りで取り残されたみたいだった…』

そこには、時も、生も、音も…そして果てすらも無い…

『まるで私を残して世界が姿を消してしまったような──』

そこまで言うと、夢の中に置き去りにして来た恐怖心が再び胸の奥を締め付け、自分の放った言葉が間違っている事に気付いた。

 

「…麻理子…?」

言いかけた言葉をそのままに、凍りついたように黙り込んでしまった私の顔を、紫義が心配そうに覗き込む。

『……違う…
姿を消したのは、世界なんかじゃ無い…』

そう──
総てを残してその姿を消したのは世界じゃない

『…私の方だったんだ…』










──大切なものを、総て置いて来た。








大切な人を、総て置いて来た。








此処にも、いつまでも留まる事なんて出来ない。







もしもこの世界を離れる刻が訪れても、元の世界に行けるなんて保証はどこにも在りはしないのに。








もしかしたら、次はあの世界に行き着くのかもしれないのに。








何も無い。
あの虚無の世界に──











『………』

急に言いようの無い不安感が押し寄せ、指先が微かに震え始めた。

恐怖心をなんとか抑えようと、きつく目を閉じて手を握り締めてみるけれど、一度生まれてしまった恐怖はそう簡単には消え去ってはくれなかった。

 


「──大丈夫です」

不意に暖かい空気に包まれ、固く閉じた瞼をゆっくりと開けると、紫義がふわりと包み込むように優しく抱きしめてくれていた。

「麻理子はちゃんと、此処に居ます…。」

『……』

「…貴女の傍には…僕が居ますから……」

『───……』



紫義の言葉が、ぽとりと胸に落ちて静かな波紋を描いた。



そんな紫義の言葉に、なんだか涙が出そうになってしまったけど

それでも零れ出たのは涙ではなく笑顔だった。

『ありがとう…
紫義のおかげで少し落ち着いた…』

「そうですか…」

私の言葉に満足そうに微笑みながら、紫義は言葉を続ける。

「僕で役立てる事があるのなら言って下さい
麻理子が望むならいつでも力を貸しますから…」

『……うん…』

「それでは僕はそろそろ戻りますが…
何かあればすぐに呼んで下さい」

『───あ……』

立ち去ろうとした紫義に声をかけようとしたけど、言葉を繋ぐ事をやめて私は慌てて両手で口を塞いだ。

「───麻理子?」

寝台を離れようとした紫義だったけれど、私が言葉を発したせいで足を止めて不思議そうに私の方へと顔を向けている。

 


『あ──…
ううん…何でもないの…
本当にありがとね。
……おやすみなさい…』

それだけを言って、私は隠れるように頭から布団を被って寝台に横になった。








本当は…
紫義には朝まで傍に居て欲しかった…


また眠りについたら同じ夢を見るかもしれない。

だけど目が醒めた時


隣に紫義が居てくれたら、私にはまだ居場所が在るんだって───


此処にちゃんと存在してるんだって…


そう思える気がするから……



だけど、そんなワガママの為に紫義を付き合わせて迷惑をかけたくなんて無い……


ただでさえ紫義は色んな事に目を向けていて、疲れてるはずなんだから──





「──麻理子」




紫義の言葉と共に、寝台がギシリと音をたてた。

『───……?』

音の正体を確かめようと、もぞもぞと布団から顔を出すと、私の隣に紫義が今にも横たわりそうな姿勢で座っていた。

『──な…ッ
何してるのよ紫義ッ!!?』

顔を真っ赤にして叫ぶ私とは対象的に、紫義は涼しい顔のまま隣に寝転んでしまった。

 

『紫義ってば───』

「麻理子」

大声で騒ぎ立てる私の言葉を遮るように、紫義は自分の胸に私を抱き寄せた。

「言ったはずですよ。
麻理子が望むならいつでも力を貸す、と……」

押し当てられた胸から、ほんの少しだけ早さを増した紫義の鼓動が聞こえてくる。

「傍に居て欲しいのなら、素直にそう言ってくれれば良かったんですよ…」

言葉の端々に微かな笑い声をちりばめながら、紫義は私の背中を優しいリズムで叩いてくれる。

紫義がどんな表情をしているのかなんて見なくてもすぐに想像出来たけれど、それでも少しだけ顔を上げてそっと覗いてみた。

「それとも…僕の思い過ごしでしたか?」

見上げた紫義の顔は、私が思い浮かべた通り
優しい…優しい微笑みをたたえていた。



兵士達の前では決してする事の無い顔…

私だけに、見せてくれる顔…





その笑顔が

声が

鼓動が

紫義の総てが私を癒してくれる…





『ううん…傍に居て…
ずっと、私の傍に居て───…』



そして
笑っていて……


「えぇ、もちろん。
貴女が望むのならいつまででも、共に居ますよ…

おやすみ
麻理子………」




End

 

 

 

 

 

 

 ~あとがき~

お疲れ様でした~♪

この小説は、携帯サイト『久遠の夢』を運営中に、訪問者様よりリクエスト頂き、書かせて頂いた小説です。

本当はもっと間に色々あったんですがなんかダラダラしてて締まりが無かったのではしょられて今の姿になったんですが… Love②が少ないような気もしますね…すいません;

もっと読んで下さってる皆様を楽しませられる小説が書けるようになりたいです…

ちなみにこの小説は最近大好きで仕方ないJanne Da Arcの【Dear my....】とゆう曲をひたすら聴きながら書きました♪ 確かこの曲は②Versionあるんですが、両方聴いてました(´∀`)